Carpe Diem

Think good thought.

クマの話

 

 ひとつ、いい話しがある。悲しい話しかもしれない。ちなみに好きな動物はhedgehogだ。理由は単純に言葉の響きが良いから。複数形にするとなお良し。

 クマの話。場所は上野動物園。夏の終わり。おりの中にシロクマがいた。中々身体も大きい。この日は平日で動物を見に来ている人はそれほど多くなかった。むしろかなり少なかったと思う。家族連れというよりは若いカップルがたくさんいた。シロクマのおりの周りには10人にも見たない程の人だかりと呼べるか呼べないものがあった。皆、クマの写真を撮っていた。自分も後ろから覗いてみると、くまは本当に何とも言えないような表情をしていた。自分の表現力では描写できないような顔と身体の動かし方。苦しくて呼吸も出来ないような身動きと表情でいながら、見方を少し変えれば満面の笑み。苦しんで喘いでいるようにも見えるのだが、人間で言うなら爆笑しているようにも見える。その区別がつかない。楽しんでいるとしても理由は定かではないが、苦しんでいると決めつけることも出来ない。きっと最も正しいのは、推測でしかないがその両方だったのかもしれない。自分としてはクマは苦しんでいるようにしか見えなかった。だが、みんなは写真を撮って笑っていた。クマが笑っている(様に見える)顔が何ともおかしくかわいかったようだ。苦しんでいるよ、と少し悲しそうな表情で母親にそう伝えていたのは小さな女の子で、そのこと自分以外は問題なくクマの表情を楽しんでいるように見えた。

 クマは苦しんでいたのか。皆はそんなことを気にしなかったのだろうか。

 このことはいろんなことを考えさせてくれた。やはり物事には二つの面がある。どう捉えるかというのが非常に大事であり多くの場合物事は二面ですらない。その人の数だけ解釈も存在するのだろう。クマは苦しんでいたのだろうか。あり得ないけど、人を笑わせようとしていたのか。そうだとしたら凄いのか。一つ思ったのは、苦しんでいても、自分がどんな辛い状況にあっても他者を笑わせることは出来るということ。たとえ、自分が死ぬ直前だとしても。その解きそうで来たら幸せなのかもしれない。

 彼女が言った。「何一つうまくいかない。本当に。」うまくいかないことだけはとてもうまくいってるみたい。そう答えると少しだけ笑ってくれたけど、それしか力になれなかった。どんな状況にいても、何かしらを他人に与えたり笑わせることは出来るしそれはもの凄い力を持っていると思う。